上 申 書

法務大臣殿

平成12年10月19日

 本日はこのような機会を設けていただきありがとうございます。
埼玉県の飯島京子と申します。
私の息子・友樹(ゆうき)は、昨年の5月14日、少年9人に金属バット・角材・竹ざお等の凶器を使った執拗な集団暴行を受け、殺されました。
わずか15歳でした。
理不尽な集団リンチにより、愛する我が子を失った、『悲しみ・怒り』は、口では到底言い表せるものではありません。
当事者にならない限り、分からないと思います。
『少年法』という法律で加害少年が保護されている、ということは漠然と知ってはいても詳細については、何一つ知りませんでした。
難しい表現の法律を読んでみたところで、混乱した状況の頭では、理解する事は困難でした。

 「少年犯罪被害当事者の会」関係者の皆さんに出会わなければ、私はきっと、毎日泣いてばかりで、『友樹が寂しいだろうから、友樹の処に行ってやりたい。』と、思いつづけていたと思います。
皆さんに励まされ、私なりに事件の事を詳しく知りたい、本当のことを知りたいと、がんばってきました。しかし、事件の内容を知れば知るほど、疑問点・納得できない点が多々でてきました。
事件の簡単な概要については、パンフレットに載せて頂きましたので、そちらをご覧になっていただきたいと思います。

 その文章は、昨年10月9日 大阪にて「少年犯罪被害当事者の会」主催による『WILL』が開催され、その会場で読み上げていただいた文章です。
その文章の中にも書いてあるように、同じ内容の書簡を埼玉県警本部長・西村浩司氏宛に送付致しました。
その回答として 11月3日 加須警察の向井副署長が「奥さんが浦和へ送った書類の事でお話させていただきたい。」と自宅へ来られました。その時の会話は副署長の承諾を得て録音しました。
一つ一つ質問に答えるという形式でやり取りしましたが、内容については、とても納得できるものではありませんでした。益々加須警察への不信感が募るものでした…。
(資料 @ 加須警察副署長向井氏との会話テープから)

 少年たちが携帯電話を使ってお互いに連絡を取り合っていたことを知りながら加害少年の通話明細も、友樹の通話明細も取り寄せておりません。
ずさんな捜査としか思えません。友樹の携帯電話はいまだに見つかっておりません。

 私共が取り寄せた友樹の通話明細を見て、会話の中で副署長は「最後4件の番号を調べてみます。」とおっしゃいました。(資料 A 通話料金明細内訳票)
しかし、真剣には調べようともせず「では聞きますが、最後の電話先が分かったとして、事件の内容が右か左に変るのですか?」と開き直るような言い方をされました。
それが被害者遺族に向かって言う言葉でしょうか?

 友樹の死亡時刻についても加須警察は特定していません。
私の一番の疑問点です。友樹は何時に何処で息を引き取ったのか、親としては一番知りたいことです。
副署長は、「何時に死亡したのかは、たいした問題ではない。」と泥棒に入られたことを例にして話されました。
「死体検案書の死亡時刻 (資料 B 死体検案書謄本コピー)よりも、時計を持っていた訳でもない加害少年の仲間の供述を信じる。」とおっしゃいました。

 私は、向井副署長の言葉にどうしても納得がいかず、埼玉医科大学法医学教室へ電話し、友樹を解剖した教授にお話しを伺えるようお願いしました。
11月30日(火) 午後、ようやく教授にお会いすることが出来ました。
先生のお話しによれば、
〔 死亡時刻に付いては、科学的データから推測し、五月十四日午前一時頃です。許容範囲をもたせるとしてもプラマイ一時間です。〕と・・・
さらに、〔鑑定事項に「死後経過時間」という項目が入っていないので、司法解剖の鑑定書の中では死亡時刻に触れられないのです。〕とおっしゃいました。

 何人かの方から「ぜひ、警察庁犯罪被害者対策室長 太田裕之様に相談してみて下さい。」とアドバイスされ、すがる思いで手紙を出しました。
(資料 C 警察庁犯罪被害者対策室長 太田裕之様)
しかし、太田氏からの返答は期待を裏切るものでした。(資料 D 回答文書)
すべての疑問点を「ご指摘の疑問点等も、母親としての思いからのものと存じます。」として片付け、「埼玉県警察の捜査については私から責任あるお答えをすることはできません。」
自分は組織側の人間であると…
誰の為の、何のための、犯罪被害者対策室なのでしょう? 真実も分からず捜査にも納得できない状態で、どうやって心のケアができるというのでしょうか?

 住吉会系暴力団・国粋会幹部の甥っ子である少年A は昨年一月に傷害事件を起こし保護観察中でした。
事件当時18歳で保護観察中の事件にもかかわらず、家庭裁判所に送る意見書には「少年院送致相当」に丸印がつけてありました。
警察の対応も、『彼等の味方』としか、私には思えませんでした。
加須警察は、「少年院送致相当」に丸印をつけて送致すれば、まず逆送にならないことを見越し、現行少年法を悪用したずさんな捜査をしたとしか思えません。

 友樹の事件の報道も「バイクを盗んだことで呼び出され。」と実名報道されました。
「捜査中だから詳しいことは話せない」としながら、報道機関には加害者側の一方的な言い分を発表していました。(資料 E 新聞報道)
たとえ、バイクを盗んだ事が事実だとしても、現在の少年法では、実名報道される事はないはずです。それが、殺されて被害者になったばかりに、少年法の保護から外され、実名報道が許されるとしたら矛盾した法律としか思えません。

将来があるから、立ち直る可能性があるからと加害少年を保護し、殺されたものは未来がないから保護しなくて良いのでしょうか?

 人一人の尊い命が亡くなっているのですから、第一次捜査権を持つ警察も検察も、もっと真剣に事実関係を調べてほしいと思います。
「死人に口無し」 をいいことに加害者側の言い分を一方的に取り上げるのではなく、被害者の人権・名誉も考慮し、せめて公平な目で捜査してほしいと思います。

 昨年12月末、やっと医師作成の司法解剖鑑定書を家裁から謄写する事ができました。
その鑑定書の内容を見ても、殺人、としか思えません。
現在の少年法では、医師作成の司法解剖鑑定書が家裁に送られる前に審判が終わってしまいます。何のために泣く泣く司法解剖の承諾書にサインをしたのか分かりません。
審判が終わってから医師作成司法解剖鑑定書を家裁に送ったところで何の意味があるのでしょう、まして被害者側には抗告権もないのが現状ですから。

 審判が終わってしまった今、『警察の捜査はおかしい!』
『真実を究明したい!』
『彼等が口裏を合わせた事を白状させたい!』
と思っても疑問点をぶつける場所が、機関がないのです。
「終わった事件」としてどこも取り合ってくれません。
審判が終わってからでないと、関係書類を取り寄せることは困難です。
でもそれでは遅すぎるのです。
結局、被害者は殺され損なのが現実です。

 事件後、食事を取る気にもなれず、食べなくては思い無理に食べても、直ぐ下痢をしてしまう状態が続き、47、8キロあった体重は、39キロ台にまで落ちました。
明るい色の洋服を着る気にもなれません。
息子の無念さを思うと、夜も眠れず、精神安定剤と睡眠薬は、手放せなくなりました…。

 この様な少年犯罪被害者の現状を少しでも皆さんに理解して頂き、今後の法律改正に盛り込んでいただきたいと思います。

 インターネットを通じ皆さんからの意見を聞きたいと思い、ホームページを開設しました。( http://www3.ocn.ne.jp/~my-angel/ マイ・エンジェル・Yuuki ) こちらにもたくさんの方からの御意見が届いています。参考にしていただければ幸いです。

 友樹は死にたくて死んだのではありません。
やりたいことも将来の夢もたくさんありました。
加害少年たちと同様「成長過程の少年」だったのです。
ひとつしかない大切な命を奪われただけではなく、人権も名誉もプライバシーさえも奪われてしまいました。
9人から2時間以上にわたって凶器を使い殴る、蹴るの暴力を受ける痛み・つらさ・無念さは私たちの想像を絶するものがあったと思います。
冷たい土の上でどんな思いで息を引き取ったかと思うと、加害少年たちに対する憎しみは増すばかりです、しかも、9人のうち5人は社会復帰していますが何の謝罪もありません。少年院で何を学んできたのでしょう?保護司は何をしているのでしょう?

 しかも、真実も究明されないままです。
先日も代理人を通じ浦和家庭裁判所に審判事由の謄写を請求しましたが、許されませんでした。
社会復帰している少年たちの保護司が誰なのかも、プライバシーの問題として教えてもらえません。
現在の少年法はあまりにも不公平だと思います。
せめて公平に扱ってほしいのです。

 子供を殺された親にしてみれば、相手が大人であろうと少年であろうと関係のないことなのです。犯した罪に対する罰がなければ、気持ちの持って行き場がなくどうにもやりきれない気持ちです。

 今回の事件でも、「人を殺したら少年でも裁判にかけられ、死刑もしくは終身刑になるかもしれない」ということになっていたら、少年たちは自分かわいさのために手加減もしたかもしれないし、息のあるうちに救急車を呼んだかもしれないと思うと残念でたまりません。

  • 少年法を解釈する上で誤解を招かないよう曖昧な言い回しは避けるべきであると思います。

     第一章第一条 この法律は、すべての少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び… としてほしいと思います。
    その他の条文についても曖昧な表現を改め明確化していただきたい。

  • 少年法改正を考える場合、人の命が関わるような重大犯罪と万引きなどの軽犯罪は分けて考えてほしいと思います。

  • 警察・検察の捜査段階から被害者側にもきちんと捜査状況を説明してほしい。まして息子のように被害者が死亡している場合、加害者の一方的な言い分が通ってしまいます。そうならないように、捜査段階から被害者・被害者遺族に意見を述べる機会を被害者の権利として認めてほしいのです。
  • 人の命に関わるような重大犯罪は、より正しい事実認定をめざし加害少年の年齢に関係なくすべて逆送にして刑事裁判にしてほしいと思います。

  • 加害者側に国選弁護人など国の負担で弁護士が付けられるのなら、被害者側にも事件後すみやかに国の負担で弁護士やカウンセラーを付けてほしいと思います。

  • 被害者・被害者遺族の人権・プライバシーを加害者同様守ってほしいと思います。被害者少年・遺族の、住所・氏名の公表が許されるのなら加害少年も同様に、つまり公平に扱ってほしいのです。

  • 加害少年には自分の犯した罪の重大さを十分に認識させ、心から反省させる場を設けてほしい。息子の事件でも一番の主犯格の少年は保護監察中でした、保護監察所・保護司の責任はないのでしょうか?

    保護監察所・保護司の責任も明確化してほしいと思います。

  • 国はもっと犯罪被害者の立場を考えて、民事裁判ででた判決がただの紙切れにならないように損害賠償額を国が被害者に支払って、加害者側から税金のような形で一生掛けてでも徴収していくようなシステムを早急に考えてほしいと思います。
乱筆乱文お許しください。 埼玉県北埼玉郡 飯島京子
              被害者・飯島友樹 享年15歳2ヶ月
                   平成11年5月14日 永眠