天国にいる息子を持つ母として、痛いほど気持ちが分かります。
勝ちゃんと名前を呼んでも、もう返事してくれへんのやなぁ。
もう喧嘩する事も出来ないんやなぁ。
18歳以上のアンタを見る事は、もう誰にも絶対に出来ないんや。
アンタ、あほやなぁ。
アンタが逝ったなんて、まだ信じられへん。
お母さん、寂しいわ。
「腹減った」ってひょいと帰って来そうな気がしてる。
お爺ちゃんによぅ頼んでおいたからな。
ちゃんとついて行くんやで。
18年しか生きてへんけどアンタ結構、好きな事もして来たやろ?
この世に未練持ったらアカンで。
勝ちゃん18年傍にいてくれて、ありがとう。
あんまり良いお母さんやなかったなぁ。許してな。
借りたお年玉、とうとう返せんかったなぁ。
かんにんしてな。
勝ちゃんの事、絶対忘れへんしな。
みんなの事、見守っててや。
勝ちゃん。
天国で静かに眠りや。
最愛の息子が逝った。
「お母さん、驚かないで下さいよ」突然の警察からの連絡で現場に駆けつけた。
クルクル回るパトライト。たくさんの警察の人。まるでテレビの刑事ドラマのシーンを見てる様だった。
自分でも現実なのか夢なのかよく分からない。
あの子と対面したのは警察署の裏だった。冷凍庫から出て来たあの子はちょっと苦しい様な顔をして静かに眠っていた。ほっぺを触ると、とてもとても冷たくて、でも私はまだ現実を受止められなくて涙も出なかった。
息子が司法解剖から帰って来た。どうしようもない悲しみと寂しさ、悔しさが一度に私を襲って来た。
解剖の結果は「溺死」
場所は電車線路下の空洞の中。入り口にはフェンスも立て看板もない。そこに疎水があって周りは囲いどころか、ほとんど段差もない。その疎水の中には20cm程の水があり、多数のブロックが不法投棄してあった。
そこに落ちてブロックで頭を打ち脳震盪を起こして、吸った水が肺に入って「溺死」したなんて言われても私には納得出来なかった。
告別式の夜、金縛りの中で私は助けを求める息子の姿を見た。最後のあの子の姿を見たんです。
あの子が最後に頼りにしたのは自分の父親でした。「パパなら俺を助けてくれるのに。パパなら自分を犠牲にしても、きっと助けてくれるのに」父親が決してそこに来る筈がない事は分かっていた筈。でも奇跡を信じてあの子は待った。そして最後の瞬間「誰でも良い。誰か俺に気づいてくれ。こんなに合図しているのに、どうして助けてくれないんだろう。今ならまだ間に合う。頼むから助けてくれ」そう思いながらあの子は逝った。金縛りが解ける瞬間、あの子は私の胸に入って来て、そしてスゥーと消えて行った。「おかん、もう・・・。」と、たった一言のメッセージを残して。
一緒にいた友達は、息子が落ちても気がつかなかったのかも知れない。
肺に水が入って息が苦しくてバチャバチャと助けを求めて合図しているのに、ふざけているとでも思ったのだろうか?いや違う。友達は異変に気が付いていた。疎水に落ちる水の音も、助けを求めて暴れる水の音も耳にしていながら見殺しにした。
携帯を持っていながら電話した先は警察でも救急車でもなく、自分らの連れの所だった。自分らの友達に電話をしても、誰にもまともに取り合ってくれず その電話を本気で聞いたのは、たった一人。
その間40分経過。息子をそのままにして逃げ様とした若い子らを見つけた近所の人が「若い子らがウロウロしている」と110番通報。巡回して来たパトカーに捕まって事件が発覚した。
幾つもの偶然が重なって、息子は死んだ。
あの日、ウチの子を友達が誘いに来なかったら。あの場所に行かなかったら。
疎水の周りに段差があったら。水がなかったら。ブロックがなかったら。
これらの一つでも欠けていたら、息子は命を落とす事はなかった。
だけど、やっぱりウチの子が悪いのかも知れない。悪いんでしょう。
そこへ行かなければ一番良かったんだから。
17年住みなれた土地から引越しをしてきて息子は寂しかったに違いない。
知り合いや友達は新しい場所には一人も居なかったのだった。やっと出来た友達に誘われて出て行き、始めて連れて行かれた場所で、息子は帰らぬ人となった。
ただ ただ無念。この気持ち、何処にも持って行き場所がない。
事件後、一旦は警察の説明に納得。
しかし後日、現場にいた子らから聞いた話に疑問を持ち、私は何度か足を運んだ。
人によって話しが食い違うのは何故か?
もう一度、事情徴収するなりして納得の行く説明が欲しいとお願いした。
だが「もう終った事だし、我々も忙しいんですよ」と冷たい返事。
私は今でも警察は、事故処理をしたのではなく事後処理をしたに過ぎないと思っている。