飯島 京子様
「話を聞いてください」のご出版記念会、おめでとうございました。
他の方々の記述も過日、全部読ませていただきました。お母様方はもちろんですが、被害当事者のお父様やご兄弟姉妹の記述に抑制のきいた深い思いが感じられて、HPでは触れられなかった貴重な記録になっていると思いました。
一方、傷害致死の暴行の死因が、大勢の方に共通していて、これは犯人達の育ち方、育った環境に、地域を問わず何か共通するものがあると感じました。私はここ何年もTVはビデオ以外見ませんので、映像番組と子供たちへの影響を分析する術がありません。でも、少年向けの劇画・コミック等の書物も含めて、メディアが、暴力を暴力とも思わない、死を死とも思わない悪魔達を育てる手伝いをしているように思えてなりません。
私達の時代には、特に男の子のしつけに男親のビンタが飛んでくるのは珍しいことではありませんでしたが、平手でも人の頭は絶対たたいてはいけないことを、小さいときから見聞きして誰もが体で知っていたと思います。戦後、学校では建前としては体罰は禁止されていますし・・。でも、きっと全国共通の暴力のお手本が陰で蔓延しているのですね。
陰で蔓延していると言えば、過日、ダルクで、少年たちの薬物汚染と闘っていらっしゃる横浜の定時制高校の先生のお話を聞く機会がありました。夜中の2時過ぎまで繁華街でピンクビラ剥がしをしたり、麻薬や性犯罪等の非行に落ちていく少年少女たちを見回って、話を聞き、自宅に連れ帰って生活を共にされているということでした。夜回りをするのが日課なのだそうです。七つの組とも渡り合い、わき腹に切りつけられたことも、教え子のことで指を詰められたこともあるということでした。
親達が我が子のことで悶々としているときに、まだまだこういう捨て身の教師もいらっしゃるのだと、感服しました。かつての、父親たちは程度の差こそあれ地域でつながっていて、多かれ少なかれ地域の子供達のことに目を光らせていたものでしたが、今は経済活動に時間を奪われてしまって、親の力が出せない構造になってしまっているのだとも思います。多くの人が、少年たちのことを頭では批判し論ずるけれど、心と体で付き合えなくなってしまっています。
少年非行について、一度したことは消えないし、償いきれない。一生背負って生きていかなければならない。子どもたちのさびしさ、心の空虚さには、私達自身の闇が映っている。親は死んでください。子供に殺されたら本望ではありませんか。子どもたちの話を聞いてください。おどしの教育はやめてください。ケースを知らない人間が、言葉で言っても効果はない、と語られていたのが印象的でした。
ガスやシンナー、フロンの吸引は脳に酸欠状態を起こし、視力の低下、心臓や脳の働きを低下させると言われます。市販のセデス、ルル、エフェドリン、リン酸コデインなども医療目的でなく、量を大量に摂ることによって、子どもたちの体と心を蝕む薬害をもたらしているそうです。
また、夜の街で、少年たちが密入国の外国人に声をかけられ麻薬を買うと、後ろに暴力団がつながっていて、望まなくても関わりができてしまう。少女の性非行についても、性を描いたコミック雑誌等のなかで、男たちの言うままの女の子が描かれていて、子供たちは日常的にそういう世界に晒されている。
それは間違いだ、うそだ、と言える子供を育てなければ、と、夜回りの実践の現場から、子供たちの心の空虚さを指摘されていました。
「話を聞いてください」の感想から、子どもたちの暴力を育てている退廃的環境について思いをめぐらせているときに、テツオさんのメールを拝見して、やはりと思いました。子どもたちの問題は、一家庭がよければよいという問題ではないと思います。
アピュイの活動の広がりのなかで、被害当事者とは、ずれた立場になると思いますが、お手伝いできることは、側面的に手伝っていきたいと思います。多くの方と協力し合って、できることは引き受けていこうと思います。
飯田 啓子