飯田啓子さんへ
被害者の近くで行動なさっている方からそのように言って頂けることは光栄です。報道に関しては多少知識がありますので、よろしければ聞いてください。答えられる範囲で答えます。下は、ある事件での報道と被害者に関する浅野健一氏の論考が載っている文章です。
http://www1.doshisha.ac.jp/~kasano/FEATURES/2000/shizuoka.html
今、被害者と報道の関係は悪くなるばかりです。昔は偽善でも正義感はあったそうですが、今は金になればいいのではないか、と思わせます。大阪高裁実名報道容認判決の際、「被害者の人権」を絶叫した新潮社は沖縄婦女暴行事件で事件の現場を詳細に書いたなどと吊り広告で宣伝して被害者の女性が日弁連に泣きつく騒動を起こしました。東電OL殺人事件でも真っ先に被害者を実名報道したのはいつも「被害者の人権」を言う産経新聞だそうです。今や報道被害と言う言葉は被疑者の問題にとどまりません。被害者・遺族、地域も破壊されます。遺族の人がマスコミがやってきて近隣に迷惑をかけたので菓子折を配ると言う話も耳にします。立場を越えてマスコミの無法な振舞いを許さないことが必要になるでしょう。
 
この事件での報道被害のパターンは、私の知る限りでは初めてのパターンです。すなわち、一方の言い分を掲載するがそれに対して反論の機会を与えていない、というものです。普通被疑者と警察と言う構図で行われるものですが今回は被害者に対して行われました。私は例え犯人でも言い分を聞いて載せることは当然だと思います。しかし、それは言われ損を許容する物ではないことも当然です。ましてや実名を出す必要性など0です。単にかわいそうだから載せないということではありません。
 この事件に関して、報道各社に対して何かリアクションは起こしているのでしょうか。このHPを読み直した限りでは見当たらないのですが、ほっておくべきではないと思います。報道が彼の冤罪の苗を植えたなら、それを刈るのも報道です。ただ、現実問題として、社会的関心がよほど大きな事件でなければ新聞社が自発的に謝罪とか訂正することはまずないです。裁判も金銭問題もありますし、そんなことに労力を使いたくないでしょう。しかし、埼玉弁護士会か日弁連、人権と報道連絡会などと相談して、記録だけでも残してもらった方がいいと思います。
 
俗悪な週刊誌、実名掲示板など、飽きられればおしまいです。むしろ悪貨は更なる悪貨に駆逐されます。某雑誌が廃刊になったのも、インターネットという更なる悪貨に駆逐されたからだと言われています。こうなると残された道は刑法で裁かれる行為だけです。もっとも、インターネットに実名を出しまくること自体脅迫を未必の故意で扇動した行いで処罰の対象だと私は思うんですが・・・。
そんな中、人権が主張されるのは当然と言う意見は救いに感じます。少年犯罪のみならず、今や日本で人権と言う言葉を使うのは被害者の敵のような雰囲気があります。浅野氏も、「コツコツと憲法を守ろうとか、人権を守ろうとかと言うと、「人権派だ」っていわれる。そのときの「人権」は、なんか胡散臭い物だと言うイメージでしょう。そういう風潮が特に若い人たちの間にあると思うんです。」と河野さんとの対談で喋っています。特に彼の場合事件があるたびに脅迫状・脅迫メールを受けているらしく、そういう動きを如実に感じています。刑事弁護の時にも、無実を主張すれば「人権派弁護士が捏造した」と誹謗中傷、<北陵クリニックの事件がそうでしょう>板倉宏日大法学部教授までが憲法に書かれているのは被疑者・被告人、つまり加害者の人権であり被害者は無視、日本は加害者天国・・・と論を始め出す始末です。被害者だけを盾にして証拠も出さずに「冤罪をウソ呼ばわりする」のは彼もです。そういう意見と一線を画した議論が連綿と続いているのは希望ですね。
本当はあの意見の前半部分だけ残しておいてもらおうか・・・とも考えたんです。しかし、落ち着いて考えれば私のような人間に何を言われた所でたぶん私刑好きは直らないだろうな、と。ああいうずれた正義感にストップをかけられるのはむしろ皆さんのはずです。ただの処罰好きでやっている連中はもう手がつけられないでしょう。
少なくとも駐在員さんの意見は過激だとは思いつつも私刑好きの低俗な意見とは一線を画している、とはとりあえず認めています。だから裏返り論法も事実無根の非難も余計に腹が立つわけですけど。
 
鱸さん
引っ込みがつけにくくなってたんで、ああ言って頂いて感謝しております。私が短慮に及んだのは背景もあって、それはほとんどの河野批判が事実無根に基づいていたり、正面からの批判ではないことです。彼に「サリン事件の被害者」と「だけ」「勝手な」レッテルを貼って、二言目には人権派が悪いと言い出すんです。佐木隆三氏に至っては彼の考えを理解せず彼を詰問する始末です。彼の意見、あの事件に関する物のみならず刑事事件に関する考察は体験に基づき、更に自分の例のみに依拠せず他の例も勉強して話している貴重な物なのに、方向をずらして門前払いと言うのはあんまりだと思っていたのです。私は彼を尊敬していますが、批判するなとか、被害者の皆さんに彼の考えを強要するつもりはないことは覚えておいてください。
                                                                                                                                                                       イリス