takeo さんへ
あなたと同じように考える人達がきっとたくさんいるのだと思います。でも、みんな発言しません。当事者への遠慮か、あるいはそう思う自分に少し疑問をもっているか、あるいは勉強に忙しくて、関われないのか・・。
大人達に反論されそうなのに、勇気をふるって二度も投書されているのは、あなた自身の立場を問いただしたいからかな、と読みました。
私は出産前には公立校に勤めたことがあります。その前も後も、いろいろな職業を経験していますが、学生時代からほとんど絶え間なくあなたのような年齢の子供達とずっと時間を共有する仕事を兼業しています。いまも受験生のために私立校の学校説明会にはよく出かけます。進学校といわれる学校へも生徒達をたくさん送り込んでいます。警察のご厄介になる子もいましたし、不登校は誰がなっても当たり前のような時代になりました。いろいろな子供達と付き合ってきた立場から、少し考えてみたいと思います。
日本の教育が、パターンで教えたり、暗記したことをいかに正確に早く吐き出せるかを問うような、深く考えさせない受験教育に傾いて以来、心の教育がおろそかにされてきました。受験競争からは、真の人間性は育ちにくいはずです。それなのに、進学校では犯罪が少ないと見られるのは、競争に向かって時間を取られていることと、学校側の生徒の選別が厳しくて、少し羽目をはずせば、どんどん排除されてしまうからです。
あなたが考えられるように、その環境を良しとするとしても、それは差別選別された狭い世界であって、一歩外の世界へ出たときには、友樹君の事件のような、考えられないような人達と付き合わざるを得ないのが、現状です。いまはできるだけ学校で時間をすごして
まっすぐ家に帰って、できるだけ外へ出ないように、なんでもご両親と相談するようにしていれば、比較的、安全かもしれませんね。
でも、大人になれば、ほとんどの人が、何らかの形で、あらゆる性向の人達とうまく付き合えるようでないと、他人の心が分かるようでないと、仕事ができないし、悲しい立場に追い込まれかねないと思います。
エリートコースを走ったために、いろいろな人の立場がわからなくて顰蹙を買っているたくさんの大人たちがいますよね。教師はもちろん、官僚も、医者も、裁判官も、弁護士も、財界の要職も、政治家も、みんな階層を問わずさまざまな人との心の交換があって、心のレッスンをたくさん経てきた人でないと本当はできないのだと思います。
友樹君の学校が進学校であったかどうか知りませんが、そして進学校などという曖昧な区分を私は認めたくありませんが、あなたの差別概念を認めるとして、あなたのような環境で子供を育てたいと思うご両親と、そうではなく、子供達が差別選別されず、いろいろな人がいる環境で育てた方がよい、と考えるご両親と、どちらが教育的かということをあなたの年齢で言いきることは、少し早すぎると思います。
仕事を始めてから、あるいは、遅ければ人生の終わりに近づいたころに、自分の教育環境がよかったかどうか、判断できるものだと思います。グローバルな立場からは、選別などなく、いろいろな人がいた方がよいに決まっています。ただ少年は弱いから、できるだけ選別された環境で教育したいと思う親御さんがいらっしゃることを誰も否定できないでしょう。
大人達が作った差別の構造が、少年達をも二分して、この重大な事件を対岸の火事のように見ることができる心を育てているとしたら、私は、あなたを責めるより、この国の教育の責任が問われなければならないと思います。制度や学校や自分を含めて教師はもちろん、親も地域もです。
残念なことに、この差別の意識の延長上に、凶悪犯への二分された見方もつながっています。
当事者が、触れてほしくないといわれている、バイクの窃盗の件、15歳で、環境も変わって、友達を大切にしたい時期の友樹君が、その持ち主の気持ちよりも目の前の友人を大切に思えば、悪い相談をどのように上手によいほうに誘導できるか、難しい問題ではありませんか。積極的に盗みにかかわているかどうかも、ご本人に聞かないとわからないことです。だから、悪くないというつもりはありませんが、だれが主犯だとしても、近隣のバイクですから、すぐ返すつもりだったことも容易に考えられます。
盗みは人間として最低、というのはよいしつけだと思います。でも、躾など守りたくない子供達がたくさん出てきていることを、大人達は考えようとしているのです。法律だって守りたくないのですから、そうなってしまう原因から考えないと、法律だけ変えてももともと地盤がおかしくなっているのですから、単純な問題ではないのです。
友樹君のご両親の教育が悪いわけではない、友達に優しかった友樹君が人間として最低なんてことはない、あなたの進学校に問題がないとしたら、ただ問題を外へ排除しているだけだと思います。
私の塾では、地域の学校のクラスの半数が喫煙や万引きの常習者といわれる中で、子供達と真剣にこの問題を話し合っています。凶悪犯が突然生まれるわけではないから、あなたの指摘のように、なぜ盗んでしまうのか、なぜ人の立場を考える心が育たなくなっているのか、そこからみんなで考えたいと思います。
飯田 啓子